おぼろげだった母の記憶と眼が、しだいに冴えわたって来た
「そういえば、私が寝る前には、黄色のジムの中に、男性のトレーナーとカビゴンが入っていたわよね・・・」
「ママが寝る時には、黄色だったんだよ それなのに、こんな夜中に黄色から青に変わったもんだから、どんなトレーナーが入ったのか、と思って見ていると、外人の女性のトレーナーさんとラッキーに変わったんだよ」
母は、そのジムの場所がどこにあるのか改めて気づいて、ますます混乱した
「こんな夜中に?あの場所には、誰もいないはずじゃないの!」
私たちは跳ね起きると、フロントでもらった大久野島の地図とiPhoneに写っている「ポケモンGO」の地図を照らし合わせた
「この島には何度も来ていたから、どこに何があるのか全て知っているつもりだったんだけど・・・」
「もしかして、今私たちがいる「休暇村」と「港近くのキャンプ場」とは別に、山の上にも、宿泊施設か、キャンプ場か、職員さんが泊まる施設があったのかもしれないわ」
私たちは、神に祈った
どうか、山の上にも、人が滞在できる施設があって欲しい
そう祈りながら、地図を穴のあくほど何度も確かめた
だが、私たちの祈りは届かなかった
私たちが問題にしている「中央砲台のジム」の周りには、中央砲台の遺跡と使用禁止のトイレ、ひょっこり展望台の他には、なにも描かれていなかったのだ
再び、恐怖が重くのしかかってきた
私たちは沈黙した
静けさを恐れた私は、声を上げた
「もしかして、職員さんが、車で島を巡回してるのかも?」
「山に登る坂道は細いし、街灯なんて一つも無いから真っ暗なんだよ しかも、きついカーブもあるのに、ガードレールが無かったじゃない」
「昼でも、うさぎに見惚れて歩いていたら、崖から転がり落ちてしまう、なんて言って崖の下を見た、あの道 、だね・・・」
中央砲台の近くにある「ひよっこり展望台」はとても景色が良い 私たちは鏡のように美しい瀬戸内海と多島美を求めて、3度この場所を訪れていた
そういえば、休暇村から外に出て少し歩けば、電波の届くジムは3か所もある
どうして、灯りの一つもない、暗闇に覆われた山の上にあるジムに、足を踏み外して崖から転落する恐れがあるのというのに、わざわざ危険を冒してまで行く必要があるのだろうか
そんなこと、誰がするというの?
だから、分かるのだ
こんな夜更けに、あの場所には、誰もいない
だけど、絶対に信じたくはないことだけれど、「なにものか」がいる
(申しわけありません 長くなってしまったので、続きます<(_ _)>)