うさぎ島(大久野島)  珍道中 怖くて一睡も出来なかった夜③

煌々とした明かりと、テレビの音と、私たちの話声のせいで、隣で寝ていた父が起きた
「もう2時じゃないか 早く寝なさい」

2時、といいう言葉が、再び私たちを恐怖のどん底に陥れた

2時、というのは、昔でいう 丑の刻 

草木も眠る丑三つ時 には、この世にあらざるものが現れる

「明るいと眠れないから、電気を消すぞ」

私と母は、「消さないで」と懇願した

だが、父は、部屋の電気を消して眠り始めた

そうだ、丑三つ時までに眠ってしまおう 

眠ってしまえば、この世に存在しないはずの何ものかが訪れて、何かが起きても、知ることはない

私は、リモコンで、24時間放送しているテレビ局に変え、母と競うように布団をかぶって眠るように努めた

だが、眠れなかった  

ティッシュで耳栓もした ゴォンゴォンという、地の底から鳴り響く音が、定期的に聞こえて来る


一日千秋という言葉があるが、今の私にとっては一分が千秋に伸びているのかと錯覚するほど長い
早く、朝が来て、この恐怖から救って欲しい

そういえば、隣で布団をかぶっている母が眠ってしまうと、たった一人でこの恐怖と闘わなくてはならない

部屋には、父も母もいるけれど、眠ってしまうと、起きていて意識のある人間は、私だけになってしまう

だから、絶対に母を眠らせてはならない 

真夜中だというのに、恐怖のせいで、私の思考は冴えわたっていた

母を起こして自分の世界に巻き込む方法はないものか

私は、あと少しで眠りにつくであろう母に向かってつぶやいていた

大久野島のうさぎって、卯タッチが上手よね 人間も二足歩行するようになったから進化が早まったんじゃない?」

反応が無い 母はすでに眠ってしまったのか

「実は、大久野島のうさぎはすごく進化しているのよ 昼間は私達人間の目を欺くために大人しくしているけど、人がいない夜になると、観光客の落としたスマホポケモンGOを楽しんでいるのかもしれない」

プッ、という母の噴き出す声が、掛け布団の下から聞こえた

「どうやって、スマホの充電をするっていうの?」

アメリカのスタートアップ企業が、うさぎの盲腸便にいる細菌を使ってゴミやCO2からエタノールを作り出したわ ここには、うさぎはたくさんいるわ 大久野島の進化したうさぎたちも、同じ技術を獲得したのかもしれないわ」

恐怖で頭が混乱していた私に続いて、母も奇妙奇天烈な想像を真剣に披露した
「山の上にUFOの基地があって、夜になると、宇宙人たちがポケモンGOを楽しんでいるんじゃない?」
「もしも、UFOの基地があるのなら、ニュースになったり噂になったりしているはずじゃない?」

「そういえば、今まで一度も、大久野島でUFOを目撃した、なんてこと、聞いたことが無いわね」

「それなら、昔、この辺の海にいた海賊の・・・」
私は慌てて後に続く言葉を飲み込んだ

海賊の霊、と言いたかったのだが「霊」という言葉、を発することがとても怖かった 「言霊」という無意識の中で信じていた力によって、「霊」が実在してしまうかもしれない

暗闇に閉ざされていたカーテンの隙間から、一条の光が差し込んでくるのがわかった 
 
 助かった

私たちはカーテンを全開した 

明るい、という事が、これほどまでに尊いのか 私の目は涙で潤み、胸が熱くなって来る

私は、すべての闇を凌駕する太陽の光に感謝した 


うさぎ達が、休暇村の前庭を駆けていた

(写真は夕方に撮ったものですが、朝もこんな感じでした)


何かが起こっても絶対に私たちを助けてくれない「うさぎ」 だけど、「この世に確かに存在する生き物」が起きてくれている ただ、それだけの事なのに、私の心は救われている

明るくなるとともに、暗闇の中で混乱していた思考力も回復してきた 

夜中に母と話していた「うさぎが人並みに進化して、とか、宇宙人が・・・」とかいう方が、霊の存在よりもはるかに怖いことに気づいた

何と、バカな事を真剣に考えていたのだろう

「うさぎが人並みに進化したら、地球を破壊してしまう人類と戦争になってしまうんじゃない?おお 怖い」
「宇宙人が身近にいる方が、何もしない霊よりも遥かに怖いわ」
朝日の差し込む窓辺で、私と母は、一睡も出来なかった寝不足の顔を見合って、お互いに笑った

(長くなってしまったので、次に続きます<(_ _)>)