朝、温泉に入るために、部屋から出て廊下に出た
廊下に出ると、休暇村の隣に家が立ち並んでいるのが見えた
そして、その奥に崖が見えた
私と母は、フロントに急いだ
若いフロントの方がいらっしゃったので、母が聞いてみた
「休暇村の隣に、何軒か家が立ち並んでいるけど、従業員さん達の寮かしら?」
「そうです」
「もしかして、寮の奥の崖の上に、中央砲台の遺跡があるんじゃない?」
「そうです」
「従業員さんの中に、ポケモンGOを楽しんでいらっしゃる方がいるのかしら?」
「そうです」
母の質問に、あまりにも早く「そうです」という答えが返ってきたことに、「質問、ちゃんと聞いていたの?」と疑問を感じながらも、私と母は、ホッと胸をなでおろした
「ジムからの電波って、水平方向には数メートルしか届かなくても、垂直方向には、際限なく届くのかも」
「山の上にあるジムだから、山の上にいないと電波が届かないと、勝手に思い込んでいたのね」
だけど、不思議なのは、予約を取る時にフロントの方に「ポケモンGOのジムやポケストップは近くにありますか?」と聞いた時には「ポケモンGO自体が何のことかわからない」らしく、時間がかかったために、質問を変えて「(ポケストップになっている)
○という場所は、休暇村から近い所にあるのですか?」と聞きなおしてやっと答えを得たというのに、今のフロントの方の回答の速さに、「どうして?」という疑問が残った
朝食の時、外人さんの女性の配膳係の方がいらっしゃったので、「ポケモンGOを楽しんでいらっしゃる?」と聞こうとしたけれど、開いていた口を慌てて手で押さえた
なぜなら、この配膳係の方が「ポケモンGOをしてない」と言われたら、誰が?ということになる
もしも、誰も知らない、という事になったら、いったい、あんな夜中に、誰がポケモンGOをしていたというのだろう
私たちは、この従業員さんがポケモンGOをしていて、夜中にジムバトルを楽しんでいるという事を勝手に信じることにした
私たち家族は、チェックアウトした後、従業員さん達の寮から「中央砲台のジム」に本当に電波が届くのか、確かめようとした
寮の前には、綱が張られていて、関係者以外立ち入り禁止だった
「残念だね」
と言いながら、心の中ではホッとしていた
もしも、寮から「中央砲台のジム」に電波が届かなかったなら、誰があんな夜中にジムバトルをしていたというのだろう
「お天気も良いし、確かめに行きましょう」
私達家族は、中央砲台の遺跡のある山の上に登った
山の上に登る坂道では、うさぎさん達が私たちに駆け寄って来て「卯タッチ」
あまりにも愛くるしいその姿に『守ってあげたい』という母性本能と「ひょっこり展望台」では美しい景色に感嘆した
私たちは、まるで桃源郷にいるかのような、有頂天になるほどの幸せを感じていた
(以前ご紹介したブログ「え~?どこからどう見てもハナクソじゃなくてう○こでしょう」と同じ日です)
ポケモンGOでの私のチームは青色だったので、「今は青色になっている中央砲台のジム」に自分のポケモンを入れた
私は、ぐるりと周りを見渡した
下にはくねった坂道と大鉄橋があったが、崖があるのかどうかは、分からない
「中央砲台のジムの下に休暇村の寮があって、電波が届く」
という検証をしようとしていたことすら、忘れさせてしまうほどの、「世の中の暗闇や恐怖など、この世のどこに存在するんだというの?」というほどの確信的で圧倒的な明るさが、媚薬を与えられた私たちに享楽的な安心を与えていた
私たち家族の誰も、これ以上真実を突きとめようとはしなかった
何かがあったとしても、私たちは、これからも大久野島に来て、可愛いうさぎさん達と触れ合ったり、美しい景色を見たり、おいしい食事と温泉のある休暇村に泊まりに来たい
昨夜、夜の暗闇の中で狂おしいほどの恐怖を感じていた事すら、忘れさせてしまうほどの誘惑や欲望だったのだ
『この問題は、うやむやにしたまま何となくピリウドを打つ』
誰も何も言わなかったけれど、多分、家族みんな、同じ気持ちだろう
休暇村に戻った私たちは「ウサギのはなくソフトクリーム」を食べた
お腹の底から笑った私たちは、昨夜の恐怖から、バカげた想像を披露しあったりありもしない妄想をしていたことなど、完璧なほどすっかり、ケロリと忘れてしまっていた
私たちは、家に帰るために「休暇村のバス」に乗り、港へと向かった
休暇村と港のちょうど中間に「大久野島毒ガス資料館」がある
私はハッとした
昨日の夜、闇に覆われた中で感じた恐怖が、いかに私たちの思考を停止させ、奇妙奇天烈とも思わせる想像や妄想を抱かせたことか
もしも、闇に覆われた恐怖の中「グループ」「地域」「集団」そして、「国」全体が、ありもしない想像や妄想にとらわれ、深淵の闇が勢力を増していったなら、
そして、闇から解放され、光が差し込む、全てが明らかになる朝になり、陽が高くなると、
私たちが「ウサギのはなくソフトクリーム」を食べ、想像や妄想をしていた事をケロリと忘れて笑ったように、
何事もなかったかのように、ヤヌスに背を向けたまま、私たちはケロリと忘れて笑っている(了)
(長くなってしまってすみません<(_ _)>読んでいただきありがとうございます!)
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